京都市下京区にある東本願寺。ここを訪れる参拝者の目を引くのが「毛綱(けづな)」だ。全部で五十三本あり、最大のものは長さ百十メートル、太さ四十センチ、重さ約一トンに及ぶ。
毛綱が実際に使われたのは、明治十三年。御影堂と阿弥陀堂の再建工事の際、材木が重過ぎて引き綱がすぐに切れてしまい、死傷者が出る事故が相次いだ。それを聞いた全国の女性信者たちが自分たちの髪を切り、毛綱を編んで寄進した。それによって難工事が、ようやく無事に済んだという。
◆遺伝子、男性ホルモン どう影響?
人間の髪の毛は、私たちが思っている以上に強いものであることが、よくわかる。一本の毛は、約百五十グラムの重さに耐えられる。同じ太さの銅線に匹敵する強度だ。
髪の毛は頭皮の表面から六―七ミリの深さから生えており、一本を引き抜くのに要する力は五十―六十グラム。そうそう簡単に抜けるものではない。
それなのに、脱毛に悩む人の場合はどうして次々に抜けてしまうのだろうか。
毛髪の研究で知られる順天堂大学医学部皮膚科の医師今井竜介さんによると、脱毛にはストレスや薬物によるものなどさまざまなタイプがある。いま、若い男性に広がっている男性型の脱毛は、毛が全く生えなくなったり、毛穴の数が少なくなってきてしまうということではない。
毛髪は、一つの毛穴から二、三本ずつ生えており、それぞれがうぶげからだんだん太く、硬く、長い毛へと成長していく。
この成長した毛が逆戻りして「うぶげ化」してしまうのが、男性型脱毛症の特徴だ。この過程で毛が抜け、「うぶげ化」が進んで髪がだんだんと薄くなる。さらに進むと、うぶげが頭皮の外に現れなくなり、外からは全く毛がなくなってしまったように見える。
この“逆転現象”が、遺伝によることと、男性ホルモンが影響するらしいことは以前からわかっていた。だが、毛のどの部分に男性ホルモンがどう影響するのかは、よくわからなかった。それがここ数年、毛髪の培養技術が進み、脱毛のメカニズムが少しずつ明らかになってきた。
それによると、毛の根元の部分にも、皮膚などと同じく、男性ホルモンが結合する「レセプター(受容体)」と呼ばれる構造があることがわかった。しかし、同じ男性型脱毛症の人でも脱毛しやすい頭頂部と脱毛しにくい側頭部ではレセプターの性質の差は見つかっておらず、脱毛の過程はまだ十分に解明できていないのが現状だ。
◆本格的解明はこれから
毛髪の医学的な研究はまだ始まったばかり。がんなどと違って直接命にかかわるというものではないだけに、各国とも毛髪の研究は立ち遅れていた。
だが、生活が豊かになり、ゆとりのある時代になって、髪の毛を気にする人たちが増えてきた。そうした人たちにとって、薄毛や脱毛の悩みから解放される“福音”が訪れるのはいつの日のことだろうか。
10 1992.01.08 美容白書の男性版を発行 すてきな中年になるために/カネボウ 東京朝刊 C経 09頁 349字 01段
「おじさま」と呼ばれるすてきな中年男性になるために――。カネボウは、男性の美容に対する意識や行動を紹介するとともに、男性が身だしなみを整えるために必要なテクニックをまとめた男性版「美容白書」(A4判、百五十六ページ)を一月一日付で発行した。
白書は、「おじさま」と「おじさん」の違いは、男性側からみれば「清潔感やファッションセンスの違い」と「髪の毛が豊かなこと」、女性側からみると「清潔感」が優先することなどを指摘。女性が期待する「おじさま」像を紹介している。
さらに、洗顔や洗髪の正しい手順、整髪料の使い方、薄毛予防対策なども写真やイラストを交えてわかりやすく説明している。
白書の中で男性のエチケットとして重視しているのは、つめの手入れや歯の磨き方など。男性はあくまでも清潔に……と強調したいようだ。